制度を超えた相談支援と実行力ある地域連携 社会福祉法人 豊徳会(福岡県福智町)

かつて炭鉱の灯がともっていた福岡県福智町。
今では福祉が町の主要産業のひとつとなり、その中心には制度により分断されていた福祉を整備した、社会福祉法人豊徳会の存在があります。障がいのある方がライフステージに応じて支援を受けられる体制を整え、地域の社会福祉法人が協働する仕組みを構築。福祉の最前線から生まれた、まちを支えるモデルが今、全国の注目を集めています。

障がい者支援の原点と制度の分断

福岡県田川郡にある社会福祉法人 豊徳会。設立は昭和55年、最初の事業所は知的障がい者の入所施設『みろく園』でした。

「筑豊はかつて炭鉱の町でした。炭鉱の衰退後、関連事業所が福祉分野へと転換し、福祉が町の主要産業となったのです。今や福智町では福祉に携わる人の割合が高く、近隣地域からも多くのご利用者が訪れる地となりました」。 そう語るのは、長年法人を率いてきた芦馬謙二理事長。制度の変遷とともに、施設の在り方も進化し、障がい者支援施設としての役割を広げてきました。

時代の大きな転機となったのが「施設から地域へ」という福祉政策の流れでした。
「従来の施設の在り方では障がい者福祉を支えきれない時代を迎え、私たちはグループホームや地域生活支援へと舵を切りました」。
しかしその先には、“縦割り”制度の壁が立ちはだかります。障がい分野といっても、障がいの種別(知的、精神、身体、発達)や課題(生活、就労、医療、教育)ごとに窓口が分かれていて、相談者は何度もたらい回しにされてしまいます。
「“制度の分断”を超えて、一人ひとりの人生に寄り添い続ける体制が必要だと痛感しました」。

ワンストップの相談支援体制の実現

芦馬理事長はすべての相談をワンストップで受け止めるサービスの必要性を強く感じ、相談業務の整備を進めました。行政から委託を受け、法人の相談支援事業には複数の機能がありました。サービス利用のための計画作成、サービス事業者への調整、在宅支援、機能訓練、職場定着支援など、分野は多岐にわたり、それぞれ制度も資金源も違う相談事業を“相談支援センター/障がい者支援センターくれそん”に集約しました。

「現在では12名の専門職が在籍し、福智を含む田川地区で、障がいに関するあらゆる相談を一つの窓口で対応できるようになりました。県内でも非常に珍しいモデルです。」
芦馬理事長は、町の地域福祉計画推進委員長としても活動し、地域住民の声に耳を傾け続けてきました。また、制度改正に関する最新情報を早期に収集し、それを踏まえて、先行的な人材配置を行いました。これは、全国団体における理事活動を通じた情報連携の成果でもあります。
「次に求められる資格や制度は何かを読み取り、先回りして備える。それが現場に求められる準備力だと思います。」
地域のニーズ把握と、制度への先見性、そして求められるあり方への実行力が、法人の相談支援体制の改革に結びつきました。

相談支援事業は“まちのシンクタンク”

芦馬理事長は「障がいのある方のあらゆる困りごとに相談対応し、必要なこと、求めていることを応える」ことを大切にしていると語ります。
障がいのある方の支援は一時的なものではなく、一生を支えるもの。介護保険制度と違い、支援が始まる時期は早く、終わりがありません。だからこそ、人生のライフステージごとに本人が選択しながら支援を受けられる環境を整える必要があります。入所、就労、地域生活、そして再び施設へと戻ります。ご利用者の人生を支え続けていくためには、幅広く、そして数多くの困りごとを受け止める必要があります。
「ワンストップの相談支援事業は、いわば‟まちのシンクタンク“のような存在です」。

「以前は『これは別の相談窓口』『それは担当外』という対応が当たり前でした。でも今は、『お困りの際は、まずはこちらにご相談ください』と案内ができるようになりました。ワンストップの相談支援のメリットは、それだけではありません。一つの事業所で、あらゆる相談支援を行うことで、担当職員はすぐに対応ができますし、専門職同士でコミュニケーションも取りやすい。担当外の内容であっても、制度や地域の現状が自ずと耳に入ってくるようになり、職員自身も支援や視点の幅が広がり、スキルの向上を実感しています」。

法人連携による共生のモデルづくり

地域のため取組のもう一つの柱が、町内での法人間連携です。2023年、福智町の社会福祉法人25法人が連携し、「福智町社会福祉連携協議会」を一般社団法人化しました。
「法人化したことで、任意団体ではできなかった事業にも取り組めるようになりました」たとえば、法人後見の仕組みもその一つです。現在は4名の方の支援を行っています。
報酬は法人に入り、継続可能な仕組みづくりが進んでいます。地域には身寄りのない方、障がい年金のみで暮らす方も多く、今後、より多くのニーズが見込まれます。
さらに、個人情報の適切な処分体制、認知症サポーター養成、電力会社との協定による電気代削減交渉など、協議会としての取組は多岐にわたります。一法人だけでは限界がある活動も、連携することで実現が叶いました。

共に支え合うネットワークの力

「最近では、電気代の急騰が私たちにとって大きな課題でした。事業所によっては、年間数百万円単位の負担増となりました。そこで、連携協議会として電力会社と交渉を行いました。25法人・57事業所が協力し合い、現行契約を見直したうえで、エリア担当者との協議を重ねました。その結果、全体で約1500万円の削減につながる成果が得られました。法人格をもつ協議会だからこそ実現できた取組です」。
福智町社会福祉連携協議会のこうした取組は、地域福祉における実行力をもつ連携団体モデルとして注目を集めています。県外からの視察も増えてきました。企業との連携や、国からの補助金を受けての共同事業など、新たな挑戦も始まっています。

今後の活動の展望

介護・保育のICT化の推進
施設管理、利用者管理、事務管理等のICT化へ対応。
BtoBによる企業間契約モデル
今後は施設と個人との取引き(BtoC)とあわせて施設と企業との取引き(BtoB)を目指し、新たな契約モデルを模索。
災害時支援への取組み強化
福智町独自の災害福祉支援チーム(福智DWAT)の設置を検討。
農福連携による取組
給食にかかわる食材確保を通じて農福連携の取組を検討。

町内の社会福祉法人のネットワークを強化し、さらに法人格を得たことで、各法人が抱えていた課題は地域全体の課題となり、解決のための歩みを進めています。加盟法人が互いに支え合いながら、情報や資源を共有し、地域に根ざした支援体制を築いています。

施設概要

法人理念

豊徳会は、“共に生きる”をモットーに
心と心で繋がったより暖かい社会の創造をめざし、
安心して暮らせるための支援を行っています。

法人名
社会福祉法人 豊徳会
所在地
福岡県田川郡福智町伊方638
URL
https://houtokukai.com/
事業内容
・障がい者支援施設
・就労継続支援施設
・児童発達支援センター
・通所生活介護
・相談支援センター
・障がい者・高齢者グループホーム 等
戻る
ページTOP