出発点は地域の声 ニーズに応え、福祉をより身近に 社会福祉法人旭川荘 ひらた旭川荘(岡山県岡山市)

理想の村をめざした旭川荘

岡山市北区平田、商業施設や住宅が建ち並ぶ一角に、“ひらたの杜”という緑豊かな空間があります。その名のとおり大きな木々が茂り、夏には木陰ができて涼やかな風が吹き抜けます。敷地内には障害者支援施設や児童発達支援センター、認可保育園などが屋根を並べ、地域の福祉拠点となっています。運営するのは社会福祉法人旭川荘です。

1957年に3つの児童福祉施設からスタートした旭川荘は、70年近い歴史のなかで岡山・愛媛両県に約80の事業所を有する大規模法人となりました。「荘」という言葉は、古くは「村」のような共同体を指しました。平田地区では7つの事業所が“ひらたの杜”を囲み、「ひらた旭川荘」を形成しています。いわゆるマンモス校があるなど、子育て世代も多い平田地区で力を入れているのが地域貢献活動です。

子どもの頃から福祉が身近になる福祉教育

ひらた旭川荘の代表的な地域活動の一つに、子どもたちへの福祉教育があります。各事業所から集まった地域貢献委員会のメンバーが、10人から15人のチームをつくって近隣の学校に出向いています。特徴的なのは、地域のニーズに応える形で事業がはじまったというところです。話を聞かせてくださったのが、障害福祉サービス事業所ラポールかえでの所長で、ひらた旭川荘の事務局長を兼ねる齋藤さんです。

「ひらた旭川荘には障害児・者通所支援事業所や児童発達支援センターを含め7つの事業所があります。周辺地域の人口増加にともなって支援を必要とする方も増えてきました。また、教育現場でも、支援が必要な方への関わり方への関心が高まっています。そうした中で、近隣の小中学校から、『関わり方についてレクチャーをして欲しい』という声が寄せられるようになりました。そうした要望が、福祉教育を充実させる一つのきっかけになりました」と齋藤さんは話します。

ひらた旭川荘では、近隣の学校と相談しながら、対象年齢に応じて福祉への親しみや理解が深まるような企画を実施しています。中学校ではこれまで人権教育の講義、職場体験の受け入れ、車椅子乗車や白杖体験などの福祉体験を実施してきました。障がいがある職員が、自身の体験を語る講義を行ったこともあります。一方、小学校では低年齢でも親しみやすい福祉体験として、総合学習の時間にボッチャを取り入れています。

「ボッチャは誰でも楽しめるユニバーサルスポーツなので、子どもたちにも好評です。障がいのある方への理解が進むにつれて、『もし障がいのある人が近くにいたら助けてあげたい』という声も聞かれるようになります。子どもたちからこうした生の声を聞くと、やってよかったなと実感します」と齋藤さんは話します。

課題は、活動の内容そのものよりも人材不足だといいます。各事業所からメンバーが集まり取り組んでいますが、日々の業務を行いながら活動を続けていくことは決して容易ではありません。一方で、「福祉教育の充実は法人の使命でもある」と齋藤さんは語ります。福祉への理解を地域に広げていく取組を、どのように持続可能な形で続けていくか、その模索はこれからも続きます。

地域の輪を広げる「ひらたの市」

もう一つ、法人の特徴的な取組が「ひらたの市」です。年に数度の施設開放日がある法人は珍しくありませんが、同イベントは毎月開催されていることが特徴です。第3木曜日の約2時間、地域でつくられた野菜、ハンドメイド作品、就労支援事業所の生産品などが並びます。10年をかけて回を重ねるなかで、現在では毎回40店舗以上が出店し、200人を超える来場者が集まるイベントへと成長しました。地域の方がたが自然と足を運び、交流が生まれる場となっています。地域貢献委員会のメンバーとして活動する小林さんから話をうかがいました。

現在は屋外の“ひらたの杜”と、隣接する体育館を会場に開催されています。“ひらたの杜”は木々が茂る緑豊かな空間で、歩くだけでも気持ちよく、木陰で休んだりお茶を楽しんだりと、思い思いに過ごすことができます。こうした開かれた雰囲気もあり、地域の方がたから好評を得ています。

「最初は正門近くのちょっとしたスペースで、10店舗ほどの規模から始まりました」と小林さんは説明します。イベントの評判は口コミで広がり、来場者が「次は自分も出店したい」と出店者側に回ったり、事業所同士の紹介で出店者が増えたりするなど、徐々に規模が拡大していきました。

毎月開催をする中で、工夫しているのは、参加者や来場者の声に耳を傾け、それを積極的に取り入れていくことです。「アンケートで『食べ物の出店が欲しい』とあればキッチンカーに声をかけ、『音楽が聴きたい』という要望があればバイオリンのコンサートを企画するなど、寄せられた声に応えてきました。法人のSNSを見て市外から来てくださる方もいます。毎月ミニゲームやスタンプラリーなども企画して、温かい雰囲気づくりに努めています」と小林さんは話します。

2025年には10周年を迎え、記念イベントも開催しました。初期の頃からの出店者がひらたの市をきっかけに仲間に出会い、新たなマルシェを立ち上げたと聞いたときは「地域の輪が広がっていることに感激しました」と小林さんは微笑みます。

「地域の方と関わることで、職場のなかだけでは出会えない人たちともつながることができます。職員にとっても多くの学びがあります。皆さんが気軽に集まって楽しめる場所となり、誰もが暮らしやすいまちづくりにつなげたい」と小林さんは語ります。
「ひらたの市」は、単に施設に訪れる人を増やすだけではなく、関係人口を増やし、地域のつながりを広げていく役割も果たしています。

多世代向けイベントで可能性を広げる

「より多くの地域の方がたに法人のことを知ってほしい」。そうした思いから、旭川荘では、地域の子どもたちや高齢者に向けたイベントを運営しています。

その一つが、ラポールかえでが実施する「ものづくりワークショップ」です。毎年夏、地域の学童保育の子どもたちを招き、施設ご利用者との交流も兼ねて、うちわやトートバッグづくり、ボッチャ大会などを行っています。
「小学生のような小さな年代の子どもたちが、楽しみながら福祉に触れ、旭川荘の存在を知ってもらえることは大きな成果です」と齋藤さんは語ります。

障がいのあるご利用者と関わるなかで、最初は戸惑う様子を見せる子どもも、「こういった手助けが自分にもできるんだ」と体験を通して学んでいく様子も見られます。さらには、「次はもっと優しい声かけができたらいいな」と積極的な関わりを目指す姿勢もありました。

一方、高齢者向けには、「いきいき健康ウォーキング」を企画しています。もともと地区の公民館が主催していた散歩イベントでしたが、担当者の高齢化により運営が難しくなったため、企画・運営をひらた旭川荘で担うことになりました。5km、10kmと一緒に歩きながら交流するなかで、雑談をきっかけに、職員が専門的な視点から参加者の日々の困りごとにアドバイスする場面もあります。旭川荘は、地域の高齢者の健康づくりを支える伴走者としての役割も担いながら、こうした取組を続けています。

大切なのは「続ける」こと

最後に、地域貢献活動をする上で大切にしていることを齋藤さんにうかがいました。「一番は地域の課題やニーズをしっかり把握することだと考えています。その上でまず旭川荘を知っていただくところから始めること。それぞれの地域に独自の特性もありますから、地域に溶け込むことが大切です」。

さらに齋藤さんは次のように続けます。「もう一つは、法人の強みを地域に還元することです。旭川荘には、さまざまな専門知識や技術をもった職員がいます。そうした力を地域のために生かしていきたい。また、小さな成功体験を積み重ね、それを地域の方がたと共有することも大切です。そして、法人が主役になり過ぎないこと。支援する側・される側を固定せずに、両者が共同して取り組む姿勢を大切にしたいと考えています」。

今後の取組について尋ねると、齋藤さんは次のように語りました。
「新しい取組を増やすというよりも、今行っている活動を、時代に合った形に工夫しながら続けていきたいと思っています。人材不足などの課題はありますが、だからといって歩みを止めるのではなく、続けていくこと自体に価値があるのではないかと考えています」。
地域の声を出発点に、ニーズに応えながら、旭川荘の取組はこれからも地域とともに続いていきます。

施設概要

法人名
社会福祉法人旭川荘 ひらた旭川荘
所在地
岡山岡山市北区平田407
URL
https://hirata-asahigawasou.jp/
事業内容

・障害者支援施設
・障害福祉サービス事業所
・児童発達支援センター
・認可保育園
・障害児・者通所支援事業所
・地域活動支援センターI型/相談支援事業所

戻る
ページTOP