自分らしい最期を支える静清会
ユネスコ世界文化遺産にも登録された「三保松原」から徒歩10分。世界中から集まる観光客と、昔ながらの住人とが交わる静岡県三保半島に、特別養護老人ホーム羽衣の園はあります。運営するのはまもなく創立30年を迎える社会福祉法人静清会です。
施設のある清水区折戸は海に囲まれたコンパクトなエリアで、古くから住む方も多くいます。地域の結びつきはありながらも、「周囲に迷惑をかけたくないという意識が強く、どうしようもなくなるまで困りごとが表に出てこないと感じています」と語るのは市川晃理事です。静清会が大切にしているのは、日々の何気ない交流のなかから早期に困りごとを見つける視点。そして“支える・支えられる”という一方的な関係ではない対等な人間観です。
知恵や経験を贈る「プレゼントバンク」
「静清会が力を入れる独自の取組の一つが「プレゼントバンク」です。プレゼントバンクは、「地域の方、一人ひとりの好きなこと、得意なことを“人生財産”ととらえて静清会にバンクしてもらい、別の方に分け合う仕組みです」と市川理事は説明します。
取組開始のきっかけは東日本大震災でした。海に囲まれた三保半島に届く東北沿岸部の被害報道。当時の理事長には他人事と思えず、地域のために何かしたいという思いが募りました。発災の一週間後にはプレゼントバンクの原型となる構想をまとめました。
拠点となるのが「学老所」と名づけられたコミュニティサロンです。高齢者の人生経験や知恵を蓄え(=バンク)、イベントなどを通じて活用(=プレゼント)できる場になっています。利用対象に制限はなく、学校の長期休みには子どもたちが宿題を持ち寄ります。「学老所001 わっぱ」に続いて開設された「学老所002 nico」には、ブックカフェのようにずらりと本が並びます。地域の方が読まなくなった本を持ち寄る「リボーンプロジェクト」の一環です。
「行政の制度だけでは届かない、生活の細部に寄り添った仕組み、地域の方が自分らしく暮らし続けられる仕組みができたらいいなと考えています」と市川理事は話します。背景にあるのは、地域に住む誰もが「人にあげられる何か」をもっているという視点です。
学びと交流の場「草薙白邸」

地域に開かれた「カフェリビング89」
風光明媚な折戸地区からはじまった静清会の活動は、より人が集まりやすい市街地にも展開されました。現在、地域活動の中心的な拠点となっているのが清水区草薙の「草薙白邸」です。サービス付き高齢者向け住宅ですが、居宅介護支援事業所と地域住民も利用できるカフェスペース「カフェリビング89(はく)」を併設するのが特徴です。
カフェ利用に登録や申請は不要で、誰でも自由に立ち寄ることができます。ベビーカーを押すお母さん、ゲームをする小学生、受験勉強に励む中学生、一人暮らしの高齢者など、さまざまな世代が利用します。おしゃれで落ち着いた雰囲気の外観を見て、高齢者向け住宅と知らず入ってくる方もいます。
「困ってから訪れるのではなく、普段から自然につながれる場所をめざして運営しています」と語るのは山田美和理事です。入居する高齢者も、若い世代を目にすると頬がほころび、自然にカフェに足が向きます。外出から自室に戻る前には必ず立ち寄る方もいるほどです。

公共冷蔵庫とシェアフリッジ
草薙白邸にもプレゼントバンクの精神が根づいています。カフェリビング内に設置された公共冷蔵庫は、地域から寄附された食品を自由に持ち帰ってよい仕組みです。お菓子や果物、夏にはアイスが入っていることもあります。「支援を受けていると意識せず、買い物の延長のように公共冷蔵庫を使って欲しいと考えています」と山田理事は話します。
月3回開かれる「シェアフリッジ」は、地域の方が不要となった洋服や日用品を持ち寄り、逆に欲しい物を持ち帰ることのできるイベントです。開催日を心待ちにし、毎月訪れる方もいます。山田理事は「単なる物の受け渡しだけではなく、顔見知りになって生まれる会話やちょっとした相談を大切にしています。公共冷蔵庫やシェアフリッジは物を介した関係づくりの場だと考えています」と話します。
ご利用者と顔馴染みになると「同じ話を何度も繰り返す」「日々の食事に困っている」「いつも同じ洋服を着ている」など気づきが得られます。公共冷蔵庫を繰り返し開ける様子から居宅介護支援事業所につながり、介護認定を受けてデイサービスに通うようになった例もあります。

入居者がワークショップの講師として活躍
さらに入居している高齢者を一方的に要支援者ととらえるのではなく、支援する側になりうるという考えのもと、地域交流をより深めるイベント運営にも取り組んでいます。
サービス付き高齢者向け住宅に、長年和裁の指導者を務めてきた女性が入居しました。住み慣れた自宅を売却し、気落ちした様子も見られましたが、着物や帯を使ったカードケースづくりを趣味で続けていました。地域のお祭りでそれを配ったところ、思いがけない好評を得ます。Instagramに作品の写真を投稿すると「私も作ってみたい」という声があがり、カフェリビング89を会場に、入居者が講師となってワークショップを開催しました。
「人に喜ばれ、感謝され、先生として頼られる場面が増えて、その方の表情が見違えるように明るくなりました。草薙白邸、そしてカフェリビング89が学びと交流の場になった瞬間でした」と山田理事は感慨深く思い返します。「“支援する・される”という関係ではなくて、その方のもっている力が広がって、地域が自然につながっていく。そんな場をつくることが私たちの大切な役割だと改めて感じました」という山田理事の言葉に、市川理事も同意します。「地域の方と関わることによって、自分たちも支えられていると気づく。この活動をやっていないと、制度にとらわれた独りよがりな支援になっていただろうなと実感しています」と振り返ります。
独居者も安心できる未来に向けて
大成功を収めているように見えるカフェリビング89ですが、最初から順調だったわけではありません。開始当初はご利用者がゼロの日も多くありました。ヒントになったのは、中学生に活動紹介をしたときにかけられた「インスタで宣伝すれば?」という言葉です。気軽に見てもらえるよう、福祉カラーを出さない投稿を意識。さらに手に取りたくなるようなショップカードもつくりました。若い世代の感性を取り入れながら、広報活動にも力を入れます。
一方で「気をつけなければならないのは、高齢者の支援という自分たちの核を忘れないことです。無理をしたり、流行りに乗ったりして事業をはじめ、すぐに辞めて高齢者が困ってしまうような事態は避けなければなりません。やるからには長く継続できるものを、というところは意識しています」と市川理事は気を引き締めます。数字で成果を示せない領域で、どう事業を評価していくか、仕組みづくりが課題だといいます。
今後の展開として考えているのが、近い将来さらに増えていくと思われる、家族をもたず高齢期を迎えた方の権利擁護です。福祉サービスが必要になっても身元保証人がいないなど、潜在的なリスクが懸念されています。民間事業者の終身サポートもありますが、当事者には心理的ハードルが高すぎると市川理事は感じています。
「自ら選択して一人で生活してきた方にも、自分らしく介護を受けられるという選択肢を、問題が起きる前から提供できたら」と話します。
静清会では、「前例や制度を当てはめるのではなく、その方自身を見る」という姿勢を大切に、地域に向き合い続けていきます。
施設概要
- 法人名
- 社会福祉法人静清会
- 所在地
- 静岡県静岡市清水区折戸5丁目18-36
- URL
- https://sei-sei-kai.jp/
- 事業内容
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■第1種社会福祉事業
・特別養護老人ホーム 経営■第2種社会福祉事業
・デイサービスセンター 経営
・短期入所事業 経営
・居宅介護等事業 経営■公益事業
・居宅介護支援事業
・サービス付き高齢者向け住宅事業
・介護予防支援事業■収益事業
・貸テナント 経営
・駐車場 経営


