人口減少地域だからこそ「保育プラスアルファ」の新たなモデルへ 社会福祉法人 暁ほほえみ福祉会(島根県益田市)

少子高齢化と向き合う暁ほほえみ福祉会

雄大な中国山地を望む島根県益田市。市街地から少し車を走らせると美しい里山が広がりますが、深刻な少子高齢化に直面する地域でもあります。市全体の高齢化率は40%に迫り、年間出生数は200人にまで減少。中山間地域に限れば、高齢化はさらに進んでいます。

「この地域はすでに、ある種の危機的な状況に立たされています。やり方を変えないと事業が継続していかないのです」と真摯なまなざしで語るのが、暁ほほえみ福祉会の山根崇徳理事長です。

法人の原点となる益田ひかり保育所は、市街地にあたる七尾地区で50年以上にわたって保育事業を行ってきました。しかし、同じ市内には人口減少により運営が難しくなった小規模法人が点在していました。暁福祉会の名だった当時の法人を主体に吸収合併を繰り返し、令和8年には4度目の合併を予定しています。中山間地の実情を目の当たりにしてきた同法人は、切実な危機感をもって地域との共生に取り組んでいます。

地域とともに進めてきた保育事業

Topic01

「地域全体が保育園」となる里山保育

暁ほほえみ福祉会を特徴づける取組に、里山保育があります。平成27年に社会福祉法人真砂福祉会と合併し、真砂保育園を運営するようになったことがきっかけでした。中山間地域に位置する真砂保育園は、令和7年現在の在園児が8名という小規模な施設です。

「最初は“森の幼稚園”のような自然活動ができればと思って視察にも行ったのですが、すでに地域では山に入る人も減り、手入れが行き届かない状態だったのです。そこで山でもまちでもない、里をテーマにした保育ができないかと考えました」と山根理事長は振り返ります。

園児たちは毎日散歩に出かけ、近隣住宅の庭で遊んだり、川遊びをしたり、野山を駆け回ったりします。日々開催される「お散歩会議」では、子どもたちが自ら行き先を決めます。

「子どもの育ちにおいて、もちろん保育士は大切な存在なんですけれど、いろいろな人が関わることで子どもの感性が磨かれます。地域のみんなが保育者であるような位置づけです。子どもたちも、地域の人に積極的に関わる力がずいぶんついてきたんじゃないかなと感じます」と山根理事長は評価します。

園児たちの訪問が地域のセーフティネットになっている側面もあります。「安否確認というと大げさですが」と山根理事長は謙遜しますが、里山保育の開始から10年を経て、保育士や園児たちは地域のほぼ全員と顔見知りです。

理想的な保育環境のように見えますが、課題もあります。「残念ながらこれから子どもがどんどん増えていくという地域ではないので、せっかく出来上がった保育をどう活かしていくかが課題です」と山根理事長は話します。

Topic02

地産地消の給食づくりと保育所レストラン

地産地消の給食など、「食」を大切にする姿勢も暁ほほえみ福祉会の特徴です。もともと益田ひかり保育所では、真砂地区のお米を給食に使っていた縁がありました。地域の農家は出荷分とは別に、自家消費用の野菜をつくりますが、余ったものは「色や形が悪くて恥ずかしいから」と捨てられていました。

益田ひかり保育所では廃棄されるはずだった野菜を買い取り、地産地消の給食づくりをはじめました。ただし、ここにも課題があります。高齢化が進み、野菜を提供してくれる農家は年々減少しています。今後どのように食材を維持していくかが課題だと山根理事長は話します。

地域と共生する活動としては、美都地区の「保育所レストラン」もユニークです。ここでは地域の方が誰でも園内で昼食を摂ることができます。メニューは園児たちの給食とまったく同じ。予約制ではありますが、決められた園開放日ではなく日常の試みであることが特色です。「これまでもイベントなどで地域の方とのつながりはありましたが、より顔が見える関係になったと思います」と山根理事長は話します。

Topic03

「子ども食堂」から「地域食堂」へ

暁ほほえみ福祉会では数年前から子ども食堂を運営してきました。しかし「こんな人に届けたい」という想いが強すぎるあまり、身動きが取りづらくなったという反省点がありました。コロナ禍を機に事業ターゲットを徹底的に練り直した結果、たどり着いたのが「お腹いっぱい食べられるところ」というシンプルなコンセプトです。

現在、子ども食堂は「カレー屋イッタク」という地域食堂に形を変え、誰でも利用できるスペースになっています。大人200円、子どもは無料のチケット制で、善意の誰かが預けたチケットを利用して食べることもできます。生活に困窮している人だけでなく、部活帰りの高校生や近隣のグループホームの住人など、幅広い世代が集まります。

「根底には経済的に困っている人がお腹いっぱい食べられる場、というのがあるのですが、それが社会から切り離された特別な場所ではないと。子ども連れの人、独居の高齢者、うちの施設の利用者さん……いろいろな事情のある人が、一つところで混ざり合っているのが、とてもいいなと思っています」と山根理事長は穏やかに微笑みます。

地域課題と福祉課題を同時に解決する「農福連携」

地域に見守られて子どもが育つ里山保育や、地産地消に支えられた食育など、独創性あふれる活動をしている暁ほほえみ福祉会ですが、共通の課題が見え隠れします。子どもは減り、事業の協力者は高齢化しています。

山根理事長は「これから児童福祉は本当に厳しくなっていく未来が見えています。子どもだけを対象にした施設を維持するのは難しいだろうと思っています」とシビアに捉えています。

保育からはじまった法人活動ですが、合併により高齢者福祉や障がい福祉に事業を広げ、来春には就労継続支援事業所を運営することになりました。山根理事長が思い描くのは、地域課題と福祉課題を同時に解決する新規事業の模索です。その一つが「農福連携」です。

「新しい事業所では、利用者さんが一般就労に向けて訓練をするという、本当の意味での就労継続支援を考えています。職業訓練校や専門学校のようなイメージですね。一方で、事業所そのものに働く場としてのニーズがあることも理解しています。そこで活動拠点を中山間地に置いて、“きちんと稼げる就労継続支援”ができないかと……」というのが山根理事長のプランです。

注目したのは地域にたくさんある耕作放棄地です。利用者に働く場を提供するとともに、地域の働き手不足を解消する、その流れのなかで地産地消を支えていきたいと考えています。

保育事業も多業種連携を強く意識します。来春に合併予定の施設は、保育所と通所介護施設が一つの建物にあります。新体制では地域外からも人が集まる機能訓練特化型デイサービスとしての運用を決めました。山根理事長は、「保育と介護を本当の意味で一体的に運営できるようになれば、一つのモデルになるのかな」と期待を込めます。

里山保育では、外から人を呼ぶ仕組みも考えています。同じ法人内でも益田ひかり保育所や吉田こども園は市街地にあるため、見知らぬ人に簡単に声をかけられるような環境ではありません。市内の他の保育所の子どもたちや、県外の子どもたちを中山間地域に受け入れられないか。「実は法人独自で保育留学の制度ができないかなと思っています」と山根理事長は展望を語ります。

「保育プラスアルファ」を一つのモデルとして

益田市で起きていることは、どこの自治体にとっても他人事ではありません。地方では保育施設や学校の統廃合が進む他、働き手が不足して都市機能が維持できなくなっています。しかし山根理事長は希望を抱いています。

「保育所と障がい福祉、保育所と高齢者福祉、保育所と一般企業……お互いWin-Winになれるサービスは何だろうといつも考えています。縦割りではなく、全体として利用者を支える仕組みをつくりたい。保育プラスアルファで、これをやるとこれだけ運営が安定するということを、実例として確立したいです」と意欲をもっています。

施設概要

法人名
社会福祉法人 暁ほほえみ福祉会
所在地
島根県益田市高津町イ2559-1
URL
hhttps://akatsuki-hohoemi.jp/
事業内容
・認定こども園 益田ひかり保育所
・認定こども園 吉田こども園
・認可保育所 真砂保育園
・認可保育所 都茂保育所
・認可保育所 東仙道保育所
・益田市病児保育室 ぞうさんのせなか 
・企業主導型保育受託事業 いろどり保育園
・介護複合施設 つむぎ
・介護複合施設 まとい
・デイサービスセンターひぐらし苑
・デイサービスセンター おりがみ
・イベント等の託児受託事業
・放課後児童クラブ業務受託事業 どんぐり児童クラブ
・保育士就学資金貸付事業
・介護福祉士養成修学資金貸与事業
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