誰もが「ふつうの暮らし」を送れるように
南高愛隣会は、長崎県で知的障がい者の支援を中心に行う社会福祉法人です。1977年の設立当初から、障がいがあっても、「ふつうの場所で、ふつうの暮らし」が送れることをめざし、歩みを続けてきました。現在は、諫早市や長崎市など県内5地区で大小60の事業所を運営しています。
「日中支援」「生活支援」「相談支援」「居宅支援」「医療支援」という5つの分野に加えて、全国でも早い時期から「罪に問われた障がい者の支援」に目を向けてきました。
その背景には、適切な支援につながらないまま地域で孤立し、繰り返し罪を犯してしまう知的障がい者の存在があります。南高愛隣会は、こうした方がたの再出発を支えるため、司法機関とも連携しながら支援のあり方を模索し続けています。
受刑者の実態調査が制度見直しのきっかけに
法人本部のある諫早市には、明治時代の長崎監獄を前身とする長崎刑務所があります。刑期を終えて出所しても就労や定住ができず、短期間のうちに食べ物を盗むなどの軽微な再犯を繰り返す累犯者の存在は、刑務所や更生保護の現場では広く知られてきました。そして、そのようなケースに一定数の知的障がい者が含まれているのではないか、という問題意識も有識者のあいだでは語られていました。しかし、その実態はほとんどわかっていませんでした。
南高愛隣会は平成18年、当時の理事長である田島良昭氏を主任研究者として厚生労働科学研究に取り組みます。当時の法務省における15施設のサンプル調査の結果、全受刑者数27,024名中、410名が知的障がい者(疑い含む)がいることが明らかになりました。ただ実際はもっと多いのではないか、という有識者の声も多々ありました。事実、この後の調査では20%を超える結果も出ています。
調査に続く平成21年、南高愛隣会では全国に先駆けて、出所後の福祉的支援を担う長崎県地域生活定着支援センターをモデル的に開設しました。同センターの初代所長に就任した酒井龍彦専務理事は、この分野の実践者として、罪に問われた要支援者を福祉へ橋渡しする取組をはじめました。
さらに調査結果は、刑務所のなかでの処遇にも問いを投げかけました。言語能力や認知能力に特性がある知的障がい者に対し、一般受刑者と同じ処遇だけでは十分な更生につながらないのではという問題意識が徐々に広がりました。そういう背景の中、平成28年には「再犯の防止等の推進に関する法律」が施行されました。こうした流れを受け、刑務所では受刑者一人ひとりの特性や課題に応じた処遇や支援を重視する方向へと制度が見直されていきます。
そして令和元年、南高愛隣会と長崎刑務所は包括連携協定を結びました。刑務官は福祉体験を行い、南高愛隣会は受刑者の福祉事業所見学等を受け入れてきました。こうした長年の連携を土台として、令和4年10月、モデル事業として長崎刑務所からの委託を受け、南高愛隣会による知的障がい受刑者の特性に応じた福祉的プログラムがはじまりました。
多彩なプログラムで構成する寄り添い型支援
長崎刑務所のプログラムには、九州圏域の刑務所等から知的障がい(疑い含む)があるとされた受刑者が、スクリーニングと本人同意の上、受講します。南高愛隣会は、一人ひとりの特性や就労の可能性を把握するためのアセスメントを行い、その結果をもとに処遇計画を立案します。
処遇計画は大きく3つのコースに分かれます。一般就労(障害者雇用含む)をめざす人のための「ビジネスサポートコース」、就労継続支援事業所の利用を視野に入れた「福祉的就労コース」、そして就労よりも生活支援や福祉サービスの利用を優先する「福祉サービスコース」です。
プログラムでは職業訓練だけでなく、絵画や園芸活動、太鼓演奏など幅広い活動を行います。自身の内側から湧きあがる思いを自由に表現する創作活動「感情表現」や、就労継続A型事業所である打楽団「瑞宝太鼓」による「体感協調」は、南高愛隣会が日頃から当該事業所のご利用者とともに力を入れている活動です。普段は法人のご利用者の日中活動を支援している職員が、それぞれの専門性を活かして、受刑者に福祉的プログラムを提供しています。
また、コースにかかわらず全員が受講する矯正指導として「犯罪防止学習」「福祉制度学習」「生活・対人スキル学習」のプログラムがあります。福祉制度学習では、出所後に利用できる福祉サービスを平易な言葉とイラストを用いて学びます。
定着支援センターにおける過去の事例では、福祉事業所を紹介しても、「そこには何年いればいいのですか」「何人部屋ですか」等、刑務所のような場所だとイメージしている人もいました。プログラムに参加する受刑者も同様に、それまで福祉と接点がなかったという方も少なくありません。
そこで南高愛隣会では、可能な限り実際の福祉事業所の見学や体験の機会を設けています。「実際に福祉事業所を見てもらうことで、出所後の生活を具体的にイメージできるようにしたい」と酒井専務理事は話します。南高愛隣会は、日々のプログラムと並行して療育手帳の取得や福祉サービス利用の調整なども進め、出所後の生活基盤づくりに取り組みます。本モデル事業では、このように受刑中から出所後の見守り体制を整えていく社会復帰調整を「寄り添い型支援」と呼んでいます。
※写真は、南高愛隣会のご利用者による制作風景です。プログラムのイメージとして掲載しており、長崎刑務所の受刑者を撮影したものではありません。
※写真は、南高愛隣会のご利用者による活動風景です。プログラムのイメージとして掲載しており、長崎刑務所の受刑者を撮影したものではありません。
モデル的実践の確かな手応えと社会復帰調整の課題
法務省効果検証センターの調査では、このプログラムを通じて、人に助けや相談を求める援助希求や、評価してもらった(褒められた)という自己有用感が高まったことが分かりました。また、小さな前進であっても認められ、評価される経験は、失敗や孤立を重ねてきたこれまでとは違う、新しい自分に出会う機会となっています。
もちろん、すべてのモデル対象者が同じような変化を見せるわけではありません。障がい受容や自己理解が難しく、福祉的支援を希望しない方も一定数います。当事者の自己選択・自己決定と、周囲の導きが必ずしも一致するとは限らないことも難しいところです。
5年間のモデル的実践は終盤に入っています。「刑務所内のプログラムにおいては、制約のある中で、こちらの提案に対し、刑務官の方に前向きにご理解、ご協力をいただき、質が高まっている」と酒井専務理事は話します。結果、福祉に興味を持ち、福祉的支援を希望する人達も出て来ています。しかし、出所後までを見据えた社会復帰調整という点ではいくつかの課題があるといいます。
一つに、受刑中の福祉的手続きの問題があります。自治体の受刑中の取扱いのバラツキもあり、療育手帳取得等に向けた申請の事務手続きが進まず、福祉的支援のスタートラインにすら立てないという状況が生まれることが多々あります。
もう一つ、迅速で円滑な社会復帰調整を阻んでいるのが刑務所特有の仕組みや内規の壁です。酒井専務理事は次のように語ります。「比較的柔軟に対応できる福祉に対し、管理性・機密性の高い矯正制度の下では、当然決定するまでのスピード感が異なります。矯正施設のなかで、前例のないことを行うには、慎重な検討と決定プロセスを確実に経る必要があり、実際の取組まで、かなり時間がかかるケースもあります。また、担当や管轄が役割ごとに明確に分かれているため、情報共有や福祉的プログラムでの受刑者本人の状況や変化が、社会復帰に向けた調整に効果的につながらないことも、福祉側の視点からみた課題です」。
「知的障がい者の場合、特性に応じた社会復帰調整は、特性に応じた処遇プログラムと併せて、できるだけ一体的・一貫的に行う必要があると思います。一つに、本人の意向を確認しながら、地域での就労(日中活動)を含めた支える体制をどう作っていくのか。そのためには受刑中の早い段階から療育手帳の取得等も含め、個々に応じた福祉的調整の取組みが重要です。場合によっては、本人の意思を導き直すアプローチも必要。」と自己理解や障がい受容等も見据えた個別指導の重要性を酒井専務理事は述べます。
福祉的アプローチで可能性を拓く
令和4年10月に始まったモデル事業には、2026年5月末現在で延べ99名が参加しました。このなかには出所後に再犯し、再び受講した人も含まれています。南高愛隣会ではモデル事業で得られた福祉的知見や課題点等を法務省矯正局にも積極的に伝え、刑務所内の処遇・支援から地域での見守りが切れ目なくつながる円滑な社会復帰支援の調整をめざしています。
障がいのある受刑者支援は、出所後も含めた中長期的な伴走が求められます。社会福祉法人がこの分野に取り組む意義について尋ねると、酒井専務理事は次のように語ります。 「対象となっているのは、これまで福祉につながる機会がないか、少なかった人たちです。そこに福祉的なアプローチをすることで、生きる術と福祉という選択肢を知り、個々の支援につながっていく。そして本人らしい安定した地域生活と、ひいては再犯防止にも寄与していく。それは私たち福祉側の人間が使命感をもって取り組まなければならない社会的な役割だと思っています」。
罪を犯したという事実だけを見るのではなく、その背景にある個人の生い立ちや生きづらさと孤立、そして社会のあり方に目を向けること。南高愛隣会の実践は、再犯防止を司法だけの課題ではなく、地域社会全体で支える「司法福祉」の課題としてとらえ直す取組でもあります。
施設概要
- 法人名
- 社会福祉法人南高愛隣会
- 所在地
- 長崎県諫早市福田町357番地15
- URL
- https://www.airinkai.or.jp/
- 事業内容
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■第二種社会福祉事業
・相談支援
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・就労移行支援
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・自立生活援助
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・学童保育
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・更生保護施設
・地域生活定着促進事業


