多世代が支え合い輝くまちへ 赤ちゃんも認知症当事者も地域の主役になる もやい聖友会(福岡県北九州市)

原点には「幸せとは何か?」を問い続ける思い

製鉄業で栄え、“鉄のまち”と呼ばれてきた福岡県北九州市。「もやい聖友会」は八幡製鉄所にも近い八幡西区で平成23年に設立された、比較的新しい社会福祉法人です。

権頭喜美惠理事長は、もやい聖友会を設立する以前から、医療法人の立場で地域の医療・福祉課題に向き合ってきました。そのなかで、ある経験が大きな転機となります。療養型病棟の多床室で、自由に身動きが取れず、ただ天井を見つめて過ごす患者たちの姿を目の当たりにしたのです。「人が亡くなる最期の瞬間までの、幸せな生き方というものを考えるようになりました」と権頭理事長は振り返ります。

こうした思いを原点として、もやい聖友会は特別養護老人ホームを開設しました。現在では就労継続支援A型事業所や放課後等デイサービス、保育園など幅広い事業を展開しています。法人名の「もやい」は、「相互扶助」の意味が込められており、多世代を対象とした地域活動は、法人運営の核となっています。

「赤ちゃん職員」にしかできない仕事がある

もやい聖友会が運営する特別養護老人ホーム「銀杏庵 穴生倶楽部」では、0歳から3歳までの乳幼児が「赤ちゃん職員」として保護者とともに施設内を散歩しています。毎日泣き声や笑い声が響きとても賑やかで、ご利用者には笑顔が浮かびます。赤ちゃん職員には「給与」としておむつが支給され、出勤回数に応じてベビーフォト撮影に参加できる「福利厚生」も用意されています

取組開始のきっかけには、権頭理事長の実体験がありました。権頭理事長の孫が生後1か月のころから施設を訪れるようになると、ご利用者たちが生き生きとした笑顔を見せるようになったのです。「赤ちゃんって何もしていないように見えますけれど、人を笑顔にする“仕事”をしていると思いました」と権頭理事長は振り返ります。

令和2年にチラシをつくって親子を募ると、全国メディアでも取り上げられ、大きな反響を呼びました。ときはちょうどコロナ禍で、家にひきこもりがちな親たちの孤立防止にも役立つと考えました。核家族で育つ子どもにとっても、家族以外の他人と接する貴重な機会になりました。ご利用者、保護者、子どもたち、それぞれにメリットのある「三方よし」の取組になったのです。

現在、「赤ちゃん職員」の登録者は130名を超え、毎日のように出勤者がいます。ご利用者は「赤ちゃん職員」の名前を覚え、「今日はあの子が来るかな」と心待ちにしています。また、活動を通じて保護者同士の交流が生まれ、子育て相談をしあったり、遠方に転居後も立ち寄ってくれる親子がいたりと、着実に縁が広がっています。

さらに、卒業した「赤ちゃん職員」のための交流会も企画しています。「ここで育った子どもたちが、小学生、中学生、高校生と大きくなってもずっと施設に来てくれ、関わってくれたらいいなと思います。この場所のことが記憶に残って、育った地域を好きになってくれたら嬉しいですね」と権頭理事長は話します。

特養発!認知症当事者も活躍するFMラジオ

同施設を訪れるのは、乳幼児とその保護者だけではありません。施設内にはパブリックスペースが設けられており、学校帰りの子どもたちが立ち寄ったり、併設のカフェでは近隣住民がお茶を楽しんだりしています。また、毎月開催している「もやい通りマルシェ」では、物販や飲食、体験型イベントなど、子どもから大人まで楽しめる企画を実施しています。

さらに、「法人施設をさまざまな市民が出入りし、地域に向けて情報を発信しながら交流が生まれる場にしたい」という思いから生まれたのが、地域コミュニティFMラジオ局のサテライトスタジオ「もやい通りスタジオ」です。

スタジオがあることで、企業人や行政関係者、教育関係者、学生など、多様な人びとが施設を訪れるようになりました。パーソナリティやゲスト、番組制作に携わる人びとが日常的に出入りし、施設と地域をつなぐ新たな接点となっています。

同時に、介護現場に対する暗いイメージを払拭し、ご利用者が楽しく過ごしている様子を発信したいという思いもありました。権頭理事長自らがラジオ番組づくりに取り組むなかで、認知症当事者が活躍する番組も生まれました。

ある日、施設でイベントを楽しむご利用者にマイクを向けたところ、スイーツバイキングの最中にもかかわらず「何も食べとらん」とコメントするご利用者や、スイーツの感想を尋ねられて「それは言ったらいけんやろ」と返すご利用者に、スタジオが思わず笑顔に。こうしたユーモラスなやりとりが「ラジオ@オレンジカフェ」という番組につながりました。「キャンディーズ」をもじって「あめちゃんず」と名づけられた認知症の女性3人組は、月1回登場する人気のパーソナリティとなりました。

番組づくりにおいても多世代交流を大切にしています。過去には、コミュニティカフェに参加する最年長と最年少が、一緒に鍋の具材を買いに出かけるという企画を行いました。孫ほども年の離れた子どもと高齢者が交流するなど、世代を超えた意外な組み合わせから生まれるやり取りは、多くの人を笑顔にしています。

ラジオ発信を通して、地域とのつながりはさらに深まりました。介護や福祉に対するイメージも、身近で前向きなものへ変わってきていることを権頭理事長は実感しています。

まち全体で困っている誰かを助ける未来へ

もやい聖友会の地域活動は、これだけではありません。「ひとつ屋根プロジェクト」は、高齢者と大学生がともに暮らすサービス付き高齢者向け住宅です。大学生は家賃が免除される代わりに、高齢者の見守りを行います。また、「もやいGAMENI座」や「劇団雪月花」は、地域の方とともに演劇活動を行っています。

こうした企画の多くは権頭理事長の発案によるものです。「常に新しい企画を考え続けているので、やってみたいことが次々と浮かんできます」。そう語る権頭理事長ですが、その実現を支えているのは職員たちの存在です。

「もやい聖友会は他法人に比べて事務職の人数が多いのが特徴です。福祉の現場では、有資格者の確保が最優先に語られますが、事務部門が充実することによって、現場の負担を軽減できる場面が実はたくさんあります。また、プロのフットサル選手を雇用しており、主にレクリエーション活動を担当しています。試合がある際には、ご利用者も会場に足を運び、声援を送っています。福祉外の分野で活躍する人たちが一緒に物事を考えてくれることの影響は、想像以上に大きいですね」と多職種・多分野が関わることの可能性を語ります。

先進的な取組は教育現場からも注目され、今年度からは大学の教員養成課程で学ぶ140名もの実習生が毎週施設を訪れ、若い感性を発揮しています。
今後はこの多世代交流や、人と人との絆づくりを、まち全体に展開していきたいと権頭理事長は構想しています。それは単に職員が社会参加する、市街地でイベントを開催するといったものではなく、市民が一体となって共生社会を実現する試みだといいます。

「例えばサービス付き高齢者向け住宅は、食事の用意であったり見守りであったり、できない部分をちょっとだけお手伝いする仕組みですよね。まち全部が、そんなサービス付き高齢者向け住宅みたいになればいいなと思っています」。

権頭理事長が描くのは、人と人との支え合いが息づく地域のなかで、一人ひとりが幸せを実感できる社会です。その実現に向けた新たな「仕掛け」は、すでに理事長の胸の中で動き始めています。

施設概要

法人名
社会福祉法人もやい聖友会
所在地
福岡県北九州市八幡西区鉄王二丁目2番36号
URL
https://moyai.or.jp/
事業内容

■高齢者福祉事業
・特別養護老人ホーム
・ショートステイ(短期入所生活介護)
・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
・小規模多機能型居宅介護
・高齢者世話付住宅生活援助員派遣事業の受託経営

■障害福祉事業
・就労継続支援A型事業所
・放課後等デイサービス

■児童福祉事業
・北九州市認可小規模保育事業所

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