公開日:2023年05月2日

【宮崎県】社会福祉法人愛泉会

宮崎の病院が挑んだ「みんなで演劇をつくる」 

宮崎空港から南に車で1時間ほど、新婚旅行の聖地で有名な「鬼の洗濯岩」を通り過ぎた先、宮崎県日南市に愛泉会日南病院がある。2002年に開院したこの病院は、重症心身障がい児・者向けの医療機関として地域、そして「障がい」に寄り添ってきた。2021年、日南病院に入院する人びと、そこで働く人びとが、ある演劇に挑戦した。その演劇は、全国で初めての試みだという。演劇に関わった方々に取材をした。

「一人ひとりの人生を少しでも輝いたものに」 重症心身障がいとともに、演劇に挑む

城下町、漁港、プロ野球チームのキャンプ地・・・様ざまな顔を持つ宮崎県日南市の海沿いに、社会福祉法人 愛泉会が運営する「愛泉会日南病院」がある。そこでは、重い障がい(重症心身障がい)のある方がたが入院し、生活している。

2021年、日南病院に入院している方がたが主役となった演劇に取り組むこととなった。

きっかけは、同じ年に「全国障がい者芸術・文化祭」が宮崎県で開催されることが決定したこと。

※全国障がい者芸術・文化祭とは(厚労省)

演劇の取組みを主導した社会福祉法人 愛泉会 西島元利(はるとし)さんに話を伺った。

「日南病院は、地域の様々な方達と連携しながら文化的な活動・療育に取り組むという方針をもってきました。そこで、人生を過ごす場のほとんどがこの病院となる患者一人ひとりの人生を少しでも輝いたものにできるよう、今回実施したのが「演劇」でした。」

演劇の取組みはNHK「おはよう日本」で取り上げられた

「演劇は、舞台上に立てば出演者全員が観客の注目のもと、「主役」になる事ができるのが最大の魅力です。」

「普段限られた方達としか接する機会のない患者のみなさんに、本格的な舞台において目標を持って努力し、大勢の方達の前で主役を体感していただく事で、今後の人生の歩みにおける大いなる自信を得ていただきたいという思いから、地元宮崎で全国障がい者芸術文化祭の開催が決定したタイミングで提案しました。」

劇は、「トヨタマヒメのちょっとした物語」と題した約10分間のストーリー。

病院の敷地にある古墳を眺めながら、神話の時代に思いをはせる物語で、脚本は、病院に当時在籍していた医師が手掛け、稽古では、宮崎大学演劇部に協力をしてもらったという。

半年間稽古を重ね、2021年11月19日、西日本の社会福祉施設が集うオンライン会議で、演劇を披露した。

撮影側の様子

「考えることが大切」 宮崎のわけもん(若者)が感じたこと

「国内演劇界で事例のない未知の領域だからこその不安もありましたが、「地域のわけもん(若者)に、質のあるものを共に創りあげ、障がいへの理解とともにご自身の視野を広げていただきたい」との思いで関わっていただいた宮崎大学演劇部の学生さん達の本当に心温かいご指導、監修をいただけた事で、患者さん、スタッフ、学生さんが一体となって取り組む事ができ、最後は最高の形で締めくくる事ができました。」と西島さんは振り返る。

そこで、日南病院の方がただけでなく、当時この演劇に関わった宮崎大学演劇部の方にも話を伺った。

―――演劇に関わるようになったきっかけを教えてください。

「自分は医学部に在籍しているので、日南病院に入院されている方がたのイメージは授業で触れていました。なので、「どうやって演劇をするんだろう」という疑問を持ったことを覚えています。」

「愛泉会の西島さんから演劇部に、「劇の演出で、演劇部の力を借りたい」と熱い誘いを受けたのがきっかけでした。演劇部は、すでにできあがっていた脚本を読み合わせて、効果音などの演出をどうつけていくか、という部分をサポートしました。」

日南病院スタッフと宮崎大学演劇部の稽古打ち合わせの様子

―――印象的だったエピソードを教えてください。

「劇中、海中でのシーンがありました。最初、大きなホールを想定して、青い照明を使うと決めていましたが、屋外で披露したときに、日南病院の職員の方の発案で、シャボン玉を泡に見立てて演出したことが印象に残っています。」

「日南病院のみなさんを見て、熱意って大事だなと強く思いました。一度オンラインで稽古を見せてもらったとき、病院の方がたは真剣に稽古に取り組んでいました。」

本番の練習をかねて、病院内でのお披露目を屋外で行った

―――今回の演劇を振り返って、感じたことを教えてください。

「演劇が、病院に入院されている方がたにとって生活の刺激になるという点で意義を感じました。」

「でも、本人にとって本当にそうだったのかは、私は本人の言葉を聴けないからわからなくて。今回の取組みに関わって私なりに考えたんですが結論はでませんでした。ただ、考えることが大事だと思うし、今回は考える機会をもらえたんだと思っています。」

「いつも誰かに何かに頼りながら生きている」

演劇に取り組むことに、最初は不安を感じる病院職員もいたという。そう感じながらも、最後には担当した演技に全力で取り組むようになったという職員から話を伺った。

「提案があった時の第一印象として様々な点で「絶対無理だろう」という思いがありました。前例のない取り組みという点もさることながら、ご自身で思うように言葉を発する事が出来ない方達がどのようにして表現できるのか不安しかありませんでした。」

「けど、稽古を重ねるにつれて形もどんどん見えてきて、毎回稽古も盛り上がり、最後の本番では演じられた皆さんが最高の出来だったので、「やりきった」という気持ちと「安心した」という安堵感に満ち溢れた、今まで体験した事のない心境になりました。」

「日常生活においてそれほど積極性があるタイプではなかった演者の方が、稽古が始まってからは毎日目を輝かせながら「次はいつ稽古があるの?」と合図を送ってくるなど、そのやる気のすごさに驚きました。」

「演者のお一人が最終リハーサル時に思うような演技が出来ずに悔し涙を流された事です。長年接している中で悔しいという表情を見た事自体が初めてでした。それだけこの演劇にかける思いが強いのだと、スタッフ一同、本番に向けて、より気持ちを高めた瞬間でした。」

「どんなに重い障がいがある方でも目標を持って人生を過ごしていただく事が大事だと思います。私達もいつも誰かに何かに頼りながら生きているという点では、重症心身障がいの方々と私達健常者は何も変わりません。ですので、重い障がいを持っているからといって決して特別視する事なく、お互い信頼し合いながら向上心を持ってお付き合いしていく事が大事なのではないかと思います。」

 

 

 基本的にスタッフの介在があって自身の意思を表現する領域の方達なので、提案があってから稽古に入るまでの間は、「どういう表現になるのか?」「どういう演技になるのか?」まったくイメージがつかなかったので、とにかく不安でしかなかったというのが正直なところです。スタッフはセリフ読みが担当だったのですが、本格的な演劇自体が私自身にとって初めての経験だった事に加えて、患者さんの動きや表情に合わせながら、かつ感情をこめてどのようにしてセリフを読めばいいか、大変悩んだ事です。
 一方で、全ての病棟の患者さん、スタッフが真剣に向き合う形で一体となって取り組むプロジェクトが、自分の職員人生の中で初めてだったので、そういう中で自分が当事者として関われた事に対する幸せを日々実感できた事が印象として残っています。これまでにない取組みを患者さんと一緒にでき、患者さんが喜ばれていた事が何より嬉しかったです。
 心身ともに重度の障がいをお持ちだからといって何もできないと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそうではありません。今回の演劇がそれを証明したと思います。しかしサポート無しでは生活していく事ができない事も事実です。その中で一方的なサポートのみ行うのではなく、患者さんと私達がお互いにとって活かし活かされる関係性でいられるように様々な事を考えていくのが重要だと私は考えます。

演劇に関わった他の職員からは…

 福祉における重要キーワード「地域連携」。しかしその連携も一方的にお願いするばかりで、かつ単調なものだけでは、時の経過と共にその関係性は徐々に薄れていくと思います。大切な事は、なにより連携・支援いただく事への感謝の気持ちを常に忘れず、そこに様々な地域課題とリンクさせながら、お互いにメリットがある関係性を質のアップデートも含めて継続的に築いていく、いわゆるソーシャルキャピタルの1つの概念を体現していく事であると私は考えています。この体現を通じて、地域に福祉という存在が当たり前のように根付き、地域のまちづくり、ひとづくりにもリンクしながら、地域の皆様と共に患者さんのため、地域のために何ができるかを可能な限り追い求めていく、そんな社会福祉法人をめざして私は今後も努力を続けてまいります。

西島 元利さん

概要

社会福祉法人愛泉会

宮崎県日南市風田3649-2

愛泉会では様ざまな取組みを行っています!URLをご覧ください。

ホームページはこちら

メディア情報はこちら

「今できる事を、そして感動を」をテーマに、様々なプロジェクトを推進し多くの報道機関様に取材していただきました。コロナ禍が始まってから現在に至るまでのメディア出演&掲載情報を少しまとめてみましたのでぜひご覧ください。

戻る
ページTOP