公開日:2023年05月2日

【広島県】社会福祉法人丘の上福祉会

子どもも大人も通う絵本図書館「かたつむりの家」

広島駅から西へ電車を乗り継いで約30分、オタフクソース本社のほど近くに、保育園が絵本図書館を開いている。「かたつむりの家」と名付けられた建物の中には、現在約3000冊の絵本が収められているという。地元だけでなく、県外からも利用する人がいるその図書館には、どのような思いが込められ、またどのような人々が訪れているのだろうか。絵本図書館を運営する(社福)丘の上福祉会と、そこを訪れる方々にそれぞれ取材を行った。

ワクワクする「かたつむりの家」 ~広島の絵本図書館~

JR山陽線新井口駅を降りて西へ歩き、広島風お好み焼きに欠かせない「オタフクソース」の本社を通り過ぎてしばらくすると、住宅街の中に、ゆるやかなカーブがある丸みを帯びた建物が見える。

2021年9月、「かたつむりの家」と名付けたその建物で、社会福祉法人丘の上福祉会は絵本図書館を開設した。

「かたつむりの家」は、同会が運営する「もみの木保育園井口園」の敷地内にある。

玄関から、大人だと少し頭がぶつかりそうな小さなドアを開けると、目の前には大木のような螺旋階段を中心に、ずらりと絵本の棚が並んでいる。緑色の温かい壁面に、部屋には少し木の香りがして、森の中にいるような気分になる。

「大木をくりぬいたようでしょ。この螺旋階段、人気なんです。」と、(社福)丘の上福祉会の西村恵美子理事長は言う。

筆者も子どもの頃に読んだことのある「かいじゅうたちのいるところ」といった世界的に有名な絵本だけでなく、地元広島にまつわる作品、海外作品の翻訳版など、幅広い蔵書が取り揃えられている。

「絵本の購入資金は当初は全くありませんでした」

絵本はゼロから収集を始めた。絵本の寄贈を呼び掛けながら、(社福)広島県共同募金会のテーマ募金(※)を活用し、3年間で500万円の寄付金を集め、絵本購入の大きな資金とした。

※テーマ募金とは…
https://www.akaihane.hiroshima.jp/

螺旋階段を昇った2階には海外の絵本のブースがあったが、まだ絵本を収める余裕があるようだった。さらに、集会が行えるくらいの広いスペースと、大量のイーゼルが置かれていた。

「イーゼルは近隣の学校から、何かに使えると思い譲り受けたものです。(笑)今はコロナ禍もあって難しいですが、今後は絵本の読み聞かせのイベントなどを2階で行えたらと思っています。」

「まだまだ絵本を増やしていきたいと思っています。ただ、テーマ募金は3年間しか活用出来ないという制限があります。そのため、当面は今の蔵書数を維持しながら、新しい本をどう補充していくか模索しています」

絵本、そして「かたつむりの家」への強い思いに応えるように、地元の住民だけでなく、県外からも利用者が訪れるという。

「いつまでもここにあり続けてほしい」 ~地域の方々の声~

今回、近隣から通われている方を中心に、実際に絵本図書館を利用する方々に質問を行った。
※個人情報保護の観点から、ご本人の情報、回答内容を一部変更しています

●地域に住まわれて10年のAさん(パート・主婦、3人家族)

好きな絵本:「さっちゃんのまほうのて」

「お父さんやお母さんの関わり方や言葉が大好きで、こんなお母さんになりたいと娘時代に思ったものです。」

――利用するようになったきっかけ、図書館の好きなところを教えてください。

「息子の小学校で読み語りの活動がきっかけでした。この図書館は絵本がたくさんあり、図書館長が絵本に詳しく、絵本についていろいろ教えて頂けるところが気に入っています。」

――絵本図書館は今後どのような場所になってほしいですか?

「地域の交流の場になったらうれしいですね。例えば、毎日第一〇曜日は伝承遊びの日とか決めて、コマ回しやけん玉をやったり…。地域の方に地域の子どもが交流しながらできたらいいですね。」

●地域に住まわれて36年のBさん(会社員。3人家族)

好きな絵本:「ピーターラビット」

「娘が好きな絵本です。うさぎが好きみたいで。」

――図書館を知ったきっかけを教えてください。

「初めての子育てで、娘にどんな絵本を選べばよいか悩んでいた時期がありました。インターネットで検索したら偶然ヒットして知りました。絵本図書館で先生やスタッフの方と話ができて、いろいろアドバイスも頂けました。」

――どのような交流がありましたか?

「娘が0歳の頃に初めて来ました。先生やスタッフの方が「ハイハイ上手だね~」とか、娘のいいところをたくさんほめてくれたり、声をかけてくれたことが今でも印象に残っています。…実は娘がここの保育園に通っています。」

――絵本図書館に通ってみていかがですか?

「会員登録もなく気軽に利用できるし、貸出期間が長いし、先生やスタッフの話題が豊富で。気軽に利用できます!」

――絵本図書館は今後どのような場所になってほしいですか?

「娘が成長しても通い続けられる場所でいてほしいです。」

●地域に住まわれて1年のCさん(専業主婦、3人家族)

好きな絵本:「こぐまちゃんシリーズ」

――絵本図書館を利用するようになったきっかけ、気に入っているところを教えてください。

「主人が子どものためにネットで見つけてきたのがきっかけでした。通ってみて、新しい絵本がたくさんあって、子どもだけでなく大人も楽しめるところだと感じています。他の図書館と違って、子どもがゆっくり本を探せるのもありがたいです。」

――よく利用されているとのことですが。

「何度も利用していて、うれしいことに名前を憶えてもらったんです。大人の自分にも図書カードを作ってくれて、新しく入った絵本を1番に貸してくれたり、とてもありがたいです。」

――絵本図書館は今後どのような場所になってほしいですか?

「いつまでもここにあり続けてほしいです。」

「子どもはもちろん大人も楽しめる絵本を」 ~絵本図書館への思い~

「かたつむりの家」を立ち上げた西村さん、「かたつむりの家」館長を務められている三浦精子さんに話を伺った。

 保育園があることで地域の子育て力がアップし、この街に保育園があって良かったねと感じていただけるようになりたいという想いのひとつが、絵本図書館の建設でした。 ヘンゼルとグレーテルがお菓子の家を見つけた時のように、絵本図書館自体がわくわくする空間になればと、外観や内装も工夫しました。この中で絵本を読むことで、来てくれた方々それぞれの、何かの力に繋がってくれたらいいなと思います。
 一般開放は、隣の保育園の園児が午睡中の13時から15時に限られますが、引っ越したばかりで誰とも話す機会がなかった時にこの図書館があってとても助かったという母娘や絵本が好きだからふらっと寄ってみたと学校帰りに立ち寄ってくれた高校生、また、遠く他県から来てくれる人も少なくありません。
こんなひとりひとりののエピソードを積み重ねて、年輪のような地域貢献が出来たらと思います。

西村 恵美子さん

絵本といえば「子どもの読みもの」「絵本を借りるのは子ども」と思われがちです。でも、多分車の運転を兼ねているのかとも思いますが、開館以来、お父さんが付き添ってこられることが多く、そうしたお父さんたちも大人も楽しめる絵本を選んでくれるようになりました。1人1回5冊、貸出は2週間というきまりがあるものの、家族数分を選んで借りていかれる方が多いです。
最近の絵本の豊かさはまだまだ理解されているとは思えません。「絵本」というだけで、まだ手にとってくれる大人は少ないように感じます。古典絵本や、世界各国の翻訳絵本などは大人の読み物として貴重です。また、実は一般大人向けの作品としても出版されてるものもあります。
ひとたび手にとってみてくれれば、絵本の豊かさはすぐに伝わるので、まず手に取って読んでみてほしいですね。
そのためにも、もっと来館者が増える施策を考えていきたいです。コロナ禍で何度か休館したりしていますので、なにより、世の中が平常になることを願っています。

三浦 精子さん

概要

社会福祉法人丘の上福祉会

〒733-0842 広島市西区井口5丁目24-22

※絵本図書館をご利用の方は井口園へお越しください

本記事の絵本図書館の他、 子育てひろば「もみのき」も開設中です。

子育てひろば「もみのき」

〒733-0832 広島市西区草津新町2丁目21-62-18カーサフジタ101

保育園では、「自分で考えて行動できる人材の育成、子どもも大人も「考える人」に」を理念に掲げ、造形教室などを取り入れた保育を行っています。このほか、各園独自メニューで自由保育・設定保育を行っています。保育について、絵本図書館や子育て広場について、詳しくはHPをご覧ください。

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